TCFD提言への取組み

1. TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同

当社グループは、2021年7月に「ESG経営宣言」を制定し、持続可能な社会の実現と企業価値の向上の両立を目指した経営を進めています。
この度、当社グループでは、TCFDが2017年に公表し、2021年10月に改訂したTCFD提言への賛同を表明するとともに、気候変動が社会と企業に与えるリスクと機会を提言に沿った形で評価し、当社グループのレジリエンスの状況を評価しました。
現在は、気候変動がもたらすリスクへの対応による事業への影響抑制を中心に分析しておりますが、将来的には、事業の成長機会についても分析・開示していく方針です。

TDFD

※TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)
Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称
2015年、G20からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)が設置

2. TCFD提言に基づく気候変動への取組み内容

ガバナンス

当社グループは、気候変動をESG経営の重要課題として捉え、社長執行役員が委員長となるサステナビリティ委員会においてサステナビリティに関わる基本方針、事業活動やコーポレート業務における戦略・戦術の審議・監督を行うとともに、その内容を定期的に取締役会へ報告しています。
サステナビリティ委員会の審議内容は、経営戦略・リスク管理・事業予算および設備投資決定プロセスに組み込まれます。

サステナビリティ推進体制図

サステナビリティ推進体制図

当社グループのサステナビリティ委員会は、社外取締役を除く全役員で構成されており、気候関連のリスクおよび機会の評価・管理に全面的に参画しています。

サステナビリティ委員会構成

(1)委員長 社長執行役員
(2)副委員長 副社長執行役員
(3)委員 (1)(2)以外の執行役員
オブザーバー:常勤監査等委員
(4)事務局 ESG推進部

戦略

1. シナリオ分析の概要

当社グループの事業に影響を及ぼす気候変動関連リスク・機会の特定にあたり、主要事業である水産練製品・惣菜事業、きのこ事業を対象にシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析は、国際機関等が公表するモデルシナリオをもとに、4℃シナリオと2℃シナリオの2つを設定して分析・評価を行っています。

<参考シナリオ:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)>
・SSPシナリオSSP3-7.0 および SSP1-2.6
・RCPシナリオRCP6.0 および 2.6

(1)想定シナリオに基づく環境の変化および当社事業への影響

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  4℃シナリオ
SSP 3‐7.0 RCP 6.0
2℃シナリオ
SSP 1‐2.6 RCP 2.6
全体 気候変動への取組みが先進国で始まるが、開発途上国では技術的・財政的に取組みが困難な状況が続き、世界のGHG排出量は十分には削減できていない。この結果、台風・集中豪雨をはじめとした異常気象による自然災害は現在以上に広域で多発するようになっている。洪水による資産喪失、物流網停滞のリスクが高まっている。
日本では、カーボンプライシングの導入が進まず、エネルギー構成も依然として化石燃料ベースのものが大きな比率を占めている。また、エネルギー技術的にも、Scope1(自社燃焼)を解決する新たな技術開発は実現されていない。各企業では、コスト増を伴う再生可能エネルギーへの移行は緩やかであり、この面での財務的影響は大きくなっていない。
カーボンプライシングや国境炭素調整措置も導入され、国際的な気候変動対応の枠組み・法規制が施行されている。国際協調での取組みの結果、2℃上昇の範囲に抑えられているが、気温は現在より1℃程度上昇する。自然災害の発生頻度も現在と同程度で推移している。
気候変動課題に対する政府の積極投資により、エネルギー関連技術の開発速度が上がっており、各企業はGHG排出量削減に向けた具体的な対策を選択できる状況となっている。
一方で、カーボンプライシングの導入は自社のエネルギー費用(税金を含む)の増加だけでなく、購入する原料コストにも影響を及ぼしている。
  水産練製品・惣菜事業 北米・北極域・東南アジアの海域では海洋生物の生態系構造(魚種)・生息域(漁場)・生育時期(漁獲シーズン)の変化が顕著になり始めており、原料(すり身)の確保が不安定になっている。一方で、内容に変化があるものの、日本近海での漁獲量は総量としては増加している。世界的な水不足は食糧生産・需給に影響を及ぼし、大豆や小麦等の価格が上昇傾向にある。このような従来原料の枯渇・不安定化は代替原料・培養原料等の開発・実用化を加速させており、その活用機会が拡大している。
日本では長い残暑が通例となり、食シーンでは春夏物商材の購買期間が長くなる一方、秋冬物商材の需要は減少している。
原料(すり身)の生産量は現状と大きく変化していないが、GHG排出量への取組みが進む中で肉食から魚食へのシフトが進んでおり、需給バランスの変化から価格は高止まり状態が継続している。
世界的な食糧生産への影響に大きな変化は起こっていないが、発展途上国での人口が拡大することに伴って食糧需要が拡大し、主要穀物を中心に需給バランスはリスクをはらんでいる。水産練製品・惣菜の原料価格は上昇傾向となっている。
真夏日の発生頻度は大きくは変わらないため、春夏物商材の販売期間が長く、秋冬物商材の販売期間が短くなる傾向にある。
きのこ事業 気温の上昇に伴い、栽培用空調の費用を中心に栽培のエネルギーコストが上昇している。加えて、必要量の確保に向け、新たなエネルギー供給源への設備投資ないし新規契約が必要になっている。
異常気象(気温・降水)が森林へ影響を及ぼしており、菌床となるおが粉の供給リスクが高まり始めている。また、世界的な水不足は菌床栄養体の原料にも影響を及ぼし、コスト上昇の原因となっている。
平均気温が現状よりも1℃上昇することにより、栽培用空調の経費は上昇している。
(2)シナリオ分析結果
  1. ①水産練製品・惣菜事業の重要な原料である海洋資源への影響は大きく、現状の魚種・漁場・漁獲シーズンの変化があることを認識しました。当社は、直接漁獲を行うわけではありませんが、原料購入コストへの影響、および魚種の変化への対応が必要になります。
  2. ②当社グループの事業に大きな影響のあるエネルギーへの影響については、政府の脱炭素政策に合わせたCO₂排出量削減への対応として、Scope2はグリーン電力化、Scope1は、対応技術が開発されるまでは、炭素税納税を前提とした財務影響が生ずることを確認しました。
  3. ③気候変動による財務影響については、エネルギーコストへの影響やカーボンプライシング導入時のシミュレーションに着手した段階であり、今後、環境コストの範囲を含めて算定を進めていきます。

2. リスク・機会の特定

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リスク・機会 事業への影響 インパクト
4℃ 1.5-2.0℃
移行リスク 市場 カーボンプライシング エネルギー転換コストの上昇ないし課税額の増加
電力価格 電力価格の高騰によるコスト増加
原油価格 原油価格の高騰によるコスト増加
消費者の嗜好の変化 消費者ニーズの変化に対応できずシェアダウン
(環境負荷商品の不買、秋冬物商材の販売減少等)
政策・
法規制
プラスティック規制 エコ素材化に伴う原材料高騰
海外のCO₂排出量削減政策強化 輸出入時の規制強化による売上減少
評判 投資家評価の変化 投資家(個人・機関)の要求(環境負荷対策)に対応できず評価ダウン
物理的リスク 急性 豪雨災害の増加 工場・センターでの浸水・水没による損害発生
地中有害細菌の放出 パンデミックの発生による事業活動停止
慢性 労働法制の変化 気温上昇に伴う高温エリア・屋外での作業規制によるコスト増
海面上昇 新潟県の浸水リスク:工場・倉庫の操業停止
植生の変化 おが粉調達の困難化
海の酸化・海水温上昇 魚介類の減少・漁場の変化による原料価格の高騰
工事期間の長期化 猛暑による作業可能時間の短縮に伴う期間とコストの増加
 
機会 評判 再エネ利用 エネルギー切替えによる他社差別化    
市場 新技術の開発・普及 きのこの排出するCO₂の利活用    
海水温上昇 北極海水域の減少による漁場拡大    

リスク管理

気候変動に関するリスクの管理については、サステナビリティ委員会とリスク管理委員会が連携する中で、全社リスク管理体制に組み込まれています。また、気候変動リスクのマネジメントについては、ISO14001に基づいて行われています。

1. 気候関連リスクの選別・評価プロセス
気候関連のリスクおよび機会については、ISO14001に基づき、環境側面(環境に直接・間接に影響を与える要素)、遵守すべき法令、外部環境における課題・内部環境における課題、利害関係者のニーズおよび期待などから、1年に1回以上の頻度で、環境管理責任者および事務局が気候関連リスクおよび機会を洗い出しています。環境管理責任者は、気候関連のリスクおよび機会をサステナビリティ委員会事務局に提出し、サステナビリティ委員会が内容を審議・承認しています。
2. 気候関連リスクの管理プロセス
サステナビリティ委員会で承認された気候関連のリスクおよび機会を踏まえ、各組織は環境目標を設定し、EMS(環境マネジメントシステム)に基づいて活動します。環境目標の達成度は半期ごとに開催されるサステナビリティ委員会で進捗管理を行い、1年に1回以上の頻度で経営会議へマネジメントレビューを行います。
3. 気候関連リスクの選別・評価・管理プロセスと総合的リスク管理の統合
当社グループでは、リスク管理委員会規程において、自然災害や製品・サービスの不良・欠陥並びに法務・コンプライアンス違反など当社を取り巻くリスクの管理を経営の重要事項として位置づけています。
サステナビリティ委員会で承認された気候関連リスクおよび機会とその対応策は、リスク管理委員会事務局を通じてリスク管理委員会に提出され、全社リスクに統合されます。

指標と目標

当社グループは、気候変動課題の経営・事業に及ぼす影響の軽減ならびに取組みを評価・管理するため、CO2排出量(Scope1+Scope2)を指標とし、2030年度のCO2排出量を50%削減(2013年度比)とする目標を設定しています。
 一方、サプライチェーンとの協働のベースにもなるScope3は排出量の算定を完了し、2022年11月のサステナビリティ委員会での確認を経て、取締役会に報告を行っています。今後、サプライチェーンの皆さまと、排出量の算定およびその削減について共有と協議を進めていきます。今後2030年度に向け、省エネ推進に加え太陽光発電設備の設置、再生可能エネルギー電力の切替え、フロン設備の低GWP化等を進め、基準年度比50%減を目指します。